大判例

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東京地方裁判所 昭和49年(特わ)309号 判決 1975年3月20日

本籍

東京都台東区東上野六丁目一〇番地

住居

神奈川県鎌倉市七里が浜二丁目五番一四号

俳優

永井之弘

昭和七年三月二七日生

右被告人に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官田中豊出席のうえ審理をとげ、次のとおり判決する。

主文

被告人懲役一〇月および罰金二、五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、俳優としてテレビ・映画等に出演するかたわら、営利を目的とした有価証券の売買を継続的に行い、多額の所得を得ていたものであるが、右売買を架空人名義で行うなどして所得を秘匿したうえ

第一、昭和四五年分の実際所得金額が四六、六七一、四五九円あったのにかかわらず、昭和四六年三月一五日東京都台東区蔵前二丁目八番一二号所在の所轄浅草税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五、五八六、〇九八円であり、これに対する所得税額が五四〇、四〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額二四、五六九、六〇〇円と右申告税額との差額二四、〇二九、二〇〇円を免れ(正当税額、ほ脱税額算定の経過は別紙一、四のとおり)

第二、昭和四六年分の実際所得金額が一五、七六〇、二二〇円あったのにかかわらず、昭和四七年三月一五日前記浅草税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四、六一五、八五〇円であり、これに対する所得税額が二二三、四〇〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額五、六四五、〇〇〇円と右申告税額との差額五、四二二、六〇〇円を免れ(正当税額、ほ脱税額算定の経過は別紙二、四のとおり)

第三、昭和四七年分の実際所得金額が一四九、五九九、四八一円あったのにかかわらず、昭和四八年三月一五日前記浅草税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三、三九七、四三〇円であり、これに対する所得税額は五一七、五〇三円であるが、すでに徴収された源泉徴収税を控除すると二八、六二四円の還付をうけることとなる旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額九九、一六一、六〇〇円と右申告税額との差額九九、一九〇、二〇〇円を免れ(正当税額、ほ脱税額算定の経過は別紙三、四のとおり)

たものである。

(証拠の標目)

一、被告人に対する収税官吏の各質問てん末書(六通)

一、被告人の検察官に対する供述調書

一、次の収税官吏の作成にかかる各査察官調査書類

木村忠夫(三通)、小村晋ほか四名、小村晋(六通)、東景治、木村忠夫ほか一名

一、次の者に対する収税官吏の各質問てん末書

福室米蔵、岡田正臣、大堀博之、永井清之(四通)、鈴木重男

一、次の者の作成にかかる各上申書

浅野裕三、白鳥暁、永井清之

一、大塚幸蔵作成の証明書

一、証人田島健吉の当公判延における供述

一、押収してある顧客住所録一袋(昭和四九年押第一一〇二号の符号1)、架空口座使用者名メモ一袋(同号の2)、信用取引口座設定約諾書一袋(同号の4)、念書一袋(同号の5)、所得税確定申告書・昭和四五年分、同四六年分、同四七年分各一袋(同号の6、7、8)、収支明細書・昭和四五年分、同昭六年分各一袋(同号の11、12、13)

(弁護人の主張に対する判断)

一、質問てん末書の証拠能力

(一)、弁護人は、収税官吏に対する被告人の質問てん末書(乙1ないし6、以下本件質問てん末書という。)は、国税犯則取締法(以下国犯法という。)一条に規定する質問に基づくものであるか否か明らかでないから、かかる調書を刑事裁判において証拠として使用することは、所得税法二三四条二項により禁止されている旨主張する。

そこで、本件質問てん末書を検討してみると、各収税官吏は質問に際して、毎回、所得税法違反けん疑事件について尋ねる旨明確に断っており、被告人がこれに対して承知した旨答えていること、その質問の場所は東京国税局査察部調室であって、質問の結果作成された調書が「質問てん末書」であること、質問者が「収税官吏」であることが右調書上明確であるだけでなく、被告人の当公判延における供述によれば、被告人は右質問に先立ち、所得税法違反けん疑事件として令状に基づき捜索を受けたことが認められる。右事実関係からすれば、本件質問てん末書か国犯法一条に規定する質問に基づき作成されたことは明らかであって、右弁護人の主張は採用できない。

弁護人は、本件質問てん末書上(国税犯則取締法」なる言葉は全く使用されていないし、被告人に対し刑事責任追求の資料となる旨明確に告知されていないから国犯法一条による質問であることが被告人には明らかでない旨主張するけれども、所得税法二三四条二項により証拠として使用することが許されないものかどうかの判断にあたっては、国犯法一条の質問に基づき本件質問てん末書が作成されたかどうかが裁判所に明確になれば足りるものであり、弁護人の述べるような文言の使用や告知が要求されるものではない。

(二)、つぎに、弁護人は、国犯法一条の質問は、一般に事前に供述義務のないことを告知することなくおこなわれ、また被質問者においてもこれが刑事上の証拠になる旨の認識もなく、かえって実際は供述を強制されていると誤信しているから、このような質問の結果作成される質問てん末書を刑事手続上証拠とすることは憲法三八条一項に違反する旨主張するが、憲法三八条一項は、いわゆる供述拒否権につきその告知を義務づけるものではなく、したがって、国犯法に右の告知の規定を欠き、また収税官吏において犯則嫌疑者に対し質問するにあたり右の告知をしなかったからといって、同法一条の規定またはこれに基づく質問手続が憲法三八条一項に違反することとなるものではない(最高裁昭和四八年一二月二〇日第一小法延判決・判例時報七二四号九三頁)し、一般に被質問者が供述を強制されていると誤信しているものと認めることもできないから、右主張は失当である。

(三)、さらに、弁護人は、国犯法一八条には差押物件、領置物件を検察官に引継ぐべき旨の規定があるのに、同法一条の質問に基づき作成された質問てん末書については、法文上刑事手続に何ら接続されていないから、憲法はそれを刑事手続上証拠とすることを元来予定していないのであって、刑事上の証拠とすることはできない旨主張する。

しかしながら、国犯法一八条は、その引継によって、それ以後検察官が刑事訴訟法の規定により、当該物件の保管、廃棄、売却、代価保管、還付、仮還付、被害者還付等の処置をなしうるようにしたもの(刑訴法一二一条ないし一二四条、二二二条一項参照)であって、このような処置を必要としない質問てん末書については、事件について告発の手続をとる以上、これを検察官に提出することは当然のことであり右のような規定を欠くことを理由に、刑事上証拠とすることができないとする弁護人の右主張は失当である。

(四)、弁護人は、ついで、本件質問てん末書は、国犯法に基づく質問によるものであることの認識が被告人に欠けたまま作成されており、また刑訴法一九八条二項の告知もなく、被告人自身が自らの刑責を問われる証拠となるなどとに全く予想せず、供述義務があるものと誤信していたことを奇貨とし、被告人の錯誤、誤信を積極的に利用し、偽計により収税官吏によって作成されたものであるから、それが任意性を欠くことは明白である旨主張する。

そこで検討するに、被告人に対し収税官吏が「国税犯則取締法」に基づく質問である旨明示したことも、供述拒否権があることを告知したことも、いずれもこれを認めるに足る証拠はないけれども、供述拒否権の告知は前述のとおり憲法三八条一項の要請するところではないし、前記(一)において認めた事実関係を総合すれば、被告人は少くとも本件質問てん末書作成の際、それが将来自己の刑責を問う資料となりうることは知っていたものと認められ、被告人が供述義務があるものと誤信していたことも、収税官吏がその誤信、錯誤を極的に利用し、偽計により本件質問てん末書を作成したことも認められない(弁護人の主張にそうかのごとき被告人の当公判延における供述部分は信用しない。)。したがって、右弁護人の主張も失当である。

(五)、さらに、弁護人は、国犯法一条の質問およびその行使の結果である質問てん末書が各個別税法上の質問とは異なり、証拠禁止の制約がなく、かつ、刑訴法一九八条二項のごとき規定がないことをもって自由に被告人の刑責を問う証拠とすることができるものと解するならば、税法違反の被疑者は、一般刑事上の被疑者と対比してみるとき何ら合理的理由なく著しく不合理な不利益、不平等を課せられるものといわなければならず、この不利益は憲法一四条からみても到底許されないものである旨主張する。

しかしながら、憲法三八条一項は、黙秘権のあることを保障しているにとどまり、いかなる国家機関の質問に対してもあらかじめ黙否権の存在を告知すべきことまで規定したものではなく、このような告知義務の存否は適宜法令をもって規定するところに委ねる趣旨と解されるところ、国犯法における質問については、それが厳格な意味における刑事手続上のものではなく、行政手続の性格を有するものであり、刑事訴訟法の犯罪捜査手続との関係においては一種の準備手続的な地位にとどまるものであり、国犯法による質問の段階においては、被質問者の地位は「被疑者」ではなく「犯則嫌疑者」であってその法的地位に差異があることに鑑みれば、弁護人の右主張は、立法論として望ましいというのであればともかく、失当という外はない。

二、ほ脱の意思および偽りその他不正の行為

つぎに、弁護人は、被告人は所得税ほ脱の意思はなく、偽りその他不正の行為もしていないと主張するので、以下検討する。

(一)、収税官吏の被告人に対する昭和四五年一〇月五日付質問てん末書、同人の検察官に対する供述調書および同人の当公判延における供述によれば、被告人は判示各所為の相当以前から有価証券売買の取引回数が、年間、五〇回以上でその売買株数が合計二〇万株以上である場合には、その所得に課税されることは知っていたものと認められる。そして、収税官吏の被告人に対する昭和四八年一〇月一二日付の質問てん末書および同人の検察官に対する供述調書によれば、被告人は収税官吏が、仮名を使い、かつ相当額の売買益があるのに申告納税しなかったことについて、全く脱税の意思がなかったのかとの質問をしたのに対し、「全くなかったと言えばうそになりますので、そうは申しません。大変に申し訳ない事であり深くお詫びいたします。」と供述し、検察官に対しては、仮名を使うようになったのは税務署に知られたくないという気持も入っていなかったわけではない旨供述していることが認められる。また、前掲の証拠の標目に挙示した諸証拠によれば、被告人は本件各係争年中に実名のほか多数の仮名を使用して、数店の証券会社において、多数回にわたり多量の有価証券の売買取引をなし、巨額の利益をあげていること、昭和四五年中には商品取引による利益があったこと、それにもかかわらず、右有価証券売買益および商品取引益については、各年分の所得税確定申告書に記載することなく過少申告をしたこと、右有価証券売買益および商品取引益については、被告人の税務上の申告等を扱っていたプロダクションの関係者や、会計事務所の担当者にも話していないこと、昭和四七年分については右有価証券の売買益等について申告しようとして計算に手をつけたが、計算が面倒でやめてしまったことがそれぞれ認められる。以上認められる事実を総合すれば、被告人は、真実の所得を隠蔽し、それが課税対象となることを回避するため、所得金額をことさら過少に記載した内容虚偽の所得税確定申告書を税務署長に提出したものと認められる。したがつて、右行為は所得税法二三八条一項の「偽りその他不正の行為」に該当するものというべきである(最高裁昭和四八年三月三〇日三小判・刑集二七巻二号一三八頁参照)。

(二)、もっとも、弁護人は、所得税法施行令二六条二項は「休眠法律」であって死文化されており、株式売買益については申告しないことが通例であり、慣行であって、これを国税当局が認めて来た旨主張するが、右施行令は昭和四〇年政令第九六号により全文改正された際、その改正前の同法施行規則四条の三・二項の内容・文言を若干改めた上設けられた規定であり、その後改廃されることなく現存しているのであって、本件の全証拠を検討してみても、右条項が「休眠法律」であり死文化されていると認められるような特段の事情は存在しないし、また、売買益につき申告しないことが通例であり慣行であって、これを国税当局が容認して来たとも認められないので、右主張は採用できない。

(三)、弁護人は、被告人は、株式売買益を申告する人は皆無で、かつ、会計事務所員や取引で接した証券外務員から申告する必要がないと聞かされ、実際に申告すべきであるという規定は空文化、死文化していて申告しなくてよいと信じて疑わなかったものである旨主張する。しかしながら、収税官吏の鈴木重男に対する質問てん末書、証人桑山敏雄の当公判延における供述、収税官吏の被告人に対する昭和四八年一〇月五日付、同月一二日付各質問てん末書、被告人の検察官に対する供述調書によれば、被告人は株式売買益を申告すべきかどうかについて会計事務所員に相談等したことはなく、有価証券売買益に対する課税の規定がだんだん空文化して来ているとの株式関係の記事を読んだような記憶があり、証券外務員らから収益を基準どおり申告している人はあまりいない、五〇回、二〇万株の基準は実際上ほとんど守られていないと聞かされたことはそれぞれ認めることができるが自己の有価証券売買の要求の実体を具体的に開示して証券外務員に相談したことも、右基準を超える場合でも申告を要しないといわれたことも認めることができない(右と異なる被告人の当公判延における供述は信用しない。)。そうすると、被告人は、せいぜい有価証券売買益につき申告している人はあまりいないし、その基準はあまり守られていないという程度の認識があったに止まり、その規定が空文化し、死文化していると誤信していたものとは到底考えられないので、弁護人の右主張は採用できない。

(四)、また弁護人は、昭和四〇年および四三年頃所轄浅草税務署に株式売買の件につき相談したり、当時使用していた仮名が自分のものである旨届出ていた旨主張し、被告人は当公判延でこれにそう供述しているが、右相談の具体的内容や申告がどのよう、ものであったか明らかでなく、またその供述を裏付ける証拠もないのであって、右被告人の供述は、にわかに信用できず、弁護人の右主張は採用できない。

(五)、弁護人が、被告人が仮名を使用したのは、げんをかつぎ縁起のよい名を使用したまでであるとか、自分が株式投資をしていることを人に知られたくなかったからであって、税務上の問題を意識して所得を秘匿し若しくは税務当局が被告人の所得を把握するのを困難ならしめようとの意図は全く存しなかった旨主張する。

しかしながら、仮名使用について右のような動機がかりにあるとしても、脱税の手段として仮名を使用することと両立しないわけではなく、本件にあっては、被告人がもっぱら右の動機のみで仮名を使用したものとは認められず、かえつて、所得税ほ脱の意思をもってその手段として使用した一面もあることが前記二(一)で述べた事実関係から認められるので、右主張は失当である。

(六)、弁護人は、被告人は仮名使用にあたり、その仮名を使用するものは自分であることを明らかにした「念書」や「保証書」等を証券会社に提出しており、又証券会社の帳簿等により証券会社に仮名使用者の真実の住所・氏名が把握されていたものであって、その点からみても被告人に所得秘匿の意図はない旨主張する。

しかしながら、押収してある、被告人の取引に関する念書(昭和四九年押第一一〇二号の符号5)によれば、その提出者の住所氏名は「板橋区下赤塚一、〇九八浅井信次」と記載されており、被告人の真実の住所・氏名は記載されていないし、また弁護人主張のような被告人の真実の住所・氏名が記載された念書、保証書は証拠として提出されていないのみならず、証人永井清之の当公判延における供述によれば、保証書は仮名を使わなくなった場合被告人らに返還され、被告人らによって処分されていたものと認められる上、右念書、保証書は、その様式、印刷文字からすると、仮名取引に間違い等が生じたときはその提出者として氏名を記載したものがその責に任じ、迷惑をかけない旨の文書であって、そこに記載された氏名の者が、その仮名取引が自己の取引であることを直接認める趣旨のものではないから、右念書、保証書が証券会社に提出されていたにしても、仮名取引の実際の取引当事者が国税当局に直ちに明確になるものとは言えない。

さらに押収してある顧客住所録(昭和四九年押第一一〇二号の符号1)、架空口座使用者メモ(同号の2)、信用取引口座設定約諾書(同号の4)には、「台東区東上野六-一-八永井秋治様方」、「東京都台東区東上野六-一-八園井啓介(永井秋治)」、「台東区東上野六-一-八永井秋治方和田秀二」と記載されており、氏名としては仮名が記載されていて、被告人の本名が記載してないものがある。してみると、果して当該仮名取引は、被告人のなしたものか、被告人の父永井秋治のなしたものか、また、その他の者がなしたものか、それのみでは国税当局に明らかでないのである。

したがって、念書、保証書が証券会社に提出されており、また、証券会社の帳簿等によって仮名取引をした者が把握されていることから被告人には所得秘匿の意図がなかったものとする右弁護人の主張も失当である。

三、違法性の認識および期待可能性

弁護人は、被告人は有価証券の取引から生ずる売買益につき申告する慣行がなく、所得税法施行令二六条二項は、同規定新設以来死文化していると信じていたものであり、被告人がこのように信じ申告しなかったことはやむを得なかったのであり、これを相当と認めるに足る事情が存したといえるので被告人は違法性の認識が欠けているか期待可能性がない旨主張するが、被告人が右のように信じていたとの前提が認められないことは前記二(三)で述べたとおりであって、弁護人の右主張はその点において既に失当である。

なお、自然犯であると法定犯であるとを問わず、故意の成立に違法の認識を必要とするものではないから、この点においても右主張は失当である。

四、違法性阻却事由

弁護人は、株式売買益は非課税との認識が広く普及し、この点に関する所得税法施行令は死文化していると信じられ、事実そのとおり慣行化しており、税務当局もこれを放置していたものであり、被告人はかかる慣行を信じていたものであって、被告人は税のほ脱のため何ら虚偽不正の行為をした形跡が存在せず、悪質さが認められないから、本件は違法性を欠き、かつ、被告人に申告を期待することは不可能であった旨主張するが、弁護人のあげる事由がすべて認められないことは既に述べたところから明らかであり右主張は前提を欠き採用できない。

五、国家刑罰権の濫用

弁護人は、非課税の慣行があり、施行令が死文化しているにもかかわらず、申告納税等につき何ら行政指導もせず、国民に周知徹底させることもなく、右非課税の慣行を信じて申告しなかつたにすぎない、被告人に刑事罰を課そうとする告発、公訴の提起は国家刑罰権の濫用できる旨主張するが、右主張もその理由としてあげる事実は前述したところから認めることができないから、前提を欠き失当である。

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するが、いずれの罪についても、その免れた所得税の額が五百万円をこえるので、情状により同条二項を適用し、所定刑中懲役刑と罰金刑を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、被告人を懲役刑については同法四七条本文、一〇条によりもっとも犯情の重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一〇月に、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で罰金二、五〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、右懲役刑については、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右の刑の執行を猶予することとする。訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して全部これを被告人に負担させることとする。

(裁判官 日浦人司)

別紙一

修正損益計算書

永井之弘

自 昭和45年1月1日

至 昭和45年12月31日

<省略>

<省略>

別紙二

修正損益計算書

永井之弘

自 昭和46年1月1日

至 昭和46年12月31日

<省略>

<省略>

別紙三

修正損益計算書

永井之弘

自 昭和47年1月1日

至 昭和47年12月31日

<省略>

<省略>

別紙四

税額等計算書

<省略>

(注1) 46,434,000×66.2%=30,739,308

30,739,308-5,232,000=25,507,300

(注2) 15,498,000×55%=8,523,900

8,523,900-2,187,500=6,336,400

(注3) 149,333,000×75%=111,999,750

111,999,750-12,284,000=99,715,700

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